BUSINESS DATA:千綿孝智ー1975年福岡生まれ。九州大学大学院卒業後、明治製菓(株)の研究所や工場で商品開発・食品技術者として10年間従事。よりお客様の近くでやりがいを感じる仕事をしたいと思い独立に至る。 浜本香代子ー1976年兵庫生まれ。京都大学大学院を卒業後、同じく明治製菓(株)の研究所や工場にて菓子製法の新技術開発・品質保証・商品開発、カカオ豆の基礎研究と製法開発に従事。また企業のコスト・調達戦略を専門とするコンサルティングファームにてシニアコンサルタントとしても従事。仕事でカカオ農園を訪れたことが人生の転機となる。
2010年9月に渡加し、同年12月にリッチモンドに La Chocolaterie をオープン。2012年に主力商品であるCoconama Chocolateに改名。2015年にはノースバンクーバーに店舗を移し、チョコレート製造販売、チョコレートワークショップなどを行っている。
夕暮れ時のノースバンクーバー、ココナマと書かれたドアを開けると、そこはチョコレートの香りが広がる工房兼店舗。白い上着を揃えで着た千綿孝智・浜本香代子夫妻が笑顔で迎えてくれました。
お店に入って目に飛び込んで来る美味しそうな色とりどりの生チョコの数々。
チョコレートとの出会い。
大山: まず単刀直入に、お2人の肩書きはパティシエ、ショコラティエどちらなのでしょうか?
タカノリさん: どっちでもないと思っているんです。肩書きはあまり気にしていなくて、しいて言うなら「チョコレートエンジニア」「チョコレートサイエンティスト」かな。そういうとみんな笑ってくれるから。
大山: お2人がチョコレートと出合ったきっかけは何だったのでしょうか?
タカノリさん: もともと学生のときからスポーツをしていて、スポーツ食品に興味があったんです。だからスポーツ食品の研究をしようと思って食品会社に入社したところ、配属先がチョコレート開発部門だった。本当は違う部署が希望だったけど、入社してしまえば配属先はノーチョイスだから。そこからチョコレートの研究と開発にのめり込んだんです。論文を読んだりスイスのチョコレートを作る機械メーカーに研修に行ったり、世界の「チョコレートドクター」と言われるチョコレートの研究者に会いに行ったりしもしました。
香代子さん: もともとバイオサイエンスに興味があり、食べるのが好きだったので(タカノリさんと)同じ食品会社に入社しました。会社の中でいろいろな部署を回り最後にカカオ豆の研究をする部署に配属されたんです。
香代子さんのカカオ豆からチョコレートを作るワークショップ。
香代子さん: そこではチョコレート開発部とは違い、どういう工程でどうしたらどういう香りや味のチョコレートができるのか、他社と差別化できるのかという、大本の研究に携わっていました。そしてそれを(タカノリさんが)商品化していました。
タカノリさん: リサーチャー&デベロッパーですね!
大山: カカオはそもそもどんなフルーツなのでしょうか?
香代子さん: カカオという植物の果実の味はパッションフルーツのようなトロピカルな味。その種がカカオ豆になるんです。現地の方はその果実を収穫して種の周りの実を食べて種を捨てることも。カカオ農園の方はその実を手で収穫し、手で台車に移し、そして運び、手で割り、種を発酵させ、乾燥させていて、その豆がチョコレートに使うカカオ豆になるまで2週間から1ヶ月ほどかかるんです。そこから先進国と言われているヨーロッパ、北米、日本の各国に輸送されてチョコレートに加工されてます。
「人とチョコレートを繋ぎたい」~それぞれの想い。
大山: カカオ豆の研究をされている香代子さんのカカオ豆への想いをきかせてください。
香代子さん: 食品会社に勤めていたときに研修で農園を訪問し、カカオ豆を加工する過程の一部始終を見たときに現地の人の温かさ、カカオ豆になるまでの大変さ、そしてカカオ豆で生計をたてる大変さを目の当たりにしました。
その時に自分は会社の一歯車として研究しているが、チョコレートの原材料になるカカオ豆を作る人の人生も知らなかったし、自分達の会社が作ったチョコレートを買っているお客さんの顔も知らないと気付き、「何をしているんだろう」という思いが生まれたんです。当時はチョコレートがカカオ豆から作られていると言うことがあまり知られていなかったので、たくさんの人の苦労と生活がある元に美味しいチョコレートを食べられるということを消費者に伝えたかった。その「人とチョコレートを繋ぎたい」という思いが強くなり、旅行で訪れ大好きになったバンクーバーで起業することにしたんです。今はカカオ豆を作っている農園に訪れ、作っている人を直接知ることが出来るし、自分達が作ったチョコレートを買ってくださるお客さんにも会えるようになりました。
香代子さん: 私とは違った視点できっと彼(タカノリさん)も同じことを思っていると思う。
タカノリさん: 開発者としてお客さんの役に立っているのかなという思いがずっとあったんです。売り上げ目標を達成する為に新商品の開発をしたりと、お客さんの為ではなく会社の押し売りのようなものを感じていた。開発にあたって「お客さん」という言葉がでてこないことが多い。お客さんが欲しがる商品を最高の品質で提供したい、なのに定価が安いのにも疑問を感じてた。カカオ豆の工程からたくさんの人の手がかかってできるチョコレートを、こんなに安く売っていいのかと思っていたんです。値段を安くするという安易な方法でしかチョコレートを売り切れていない、世の中に知ってもらえていない、なのでそういった意味で人とチョコレートを繋ぎたいと思ったのです。
「誰も思いつかないものをつくりたい」アイデアの源。
大山: お客さんを大切にするお2人がつくる新しい味は、どういう風に生まれるのでしょうか?
タカノリさん: 基本的には自分が食べたいと思った味を作る(笑)お客さんの意見を取り入れて作るときが多いが、基本自分が消費者目線で食べてみたいと思う味に挑戦してみる。
大山: 自分が食べたいと思って作った味で、大人気になったものはありますか?
タカノリさん: 塩キャラメル!納得する味に仕上げるまで大変苦労してやっと去年完成した。
大山: アイデアを無限に広げる感性を磨く為に日々心がけていることはありますか?
タカノリさん: 感性を磨くというよりかは、24時間チョコレートのことをずっと考えている。常に意識をしています。でもそれは自分でビジネスをされてる方はみんな同じだと思う。日頃から何か自分のビジネスの役に立つこと、お客さんの役に立つのではないか、ということを常に意識して生きている。僕は人から「コイツ頭おかしいんじゃないか」と思われるような誰も思いつかないものを作りたいと思ってるんです。みんなをびっくりさせたい。日本に居たときはコンビニとスーパーは習慣で毎日通ってました。好きだから、自然と四六時中考えてしまいます。
これぞココナマのチョコがつくり出す「幸せの顔」。
大山: では逆に、ヒットすると思って作った商品で売れなかったものなんてありますか?
タカノリさん: たくさんあります (笑)。でも一番は抹茶山椒!すごく美味しいんだけど、ちょっとバンクーバーの人達には早かったかなぁ (笑) まだ山椒はバンクーバーでは定着してないから、思いが伝わりきらなかった。あとはサーモン。カナダデーにサーモンとサワークリームの生チョの二種類を作って出したんです。やっぱりカナダといったら赤と白の二色だし、サーモンは外せない。キャンディーサーモ ンもあるし、チョコにしても意外と合うんじゃないかと思った。サーモンの方はビーツで赤く色付けして、サーモン以外にラズベリーソースも加えてワンディッシュをイメージして作ったんです。変わったものが好きな人には受けが良かったけどメジャーには受けなかったなあ。
”サーモンとサワークリームのラズベリーソース” のワンディッシュ。 これがびっくり美味しい!
こちらは香りが素晴らしい ”山椒”。 チョコレートに使う素材へのこだわりも一入。
日本人チョコレートエンジニアとしての挑戦。
大山: 日本人としてのメリットを感じたことは?
タカノリさん: 初めアジア人が比較的多いリッチモンドでお店を出したときは、日本人だから安心して買ってもらえていて、「日本ブランド」を感じてました。ロケーションを変えた今はアジア人に限らずたくさんの方が来てくれるようになったけど、「日本人だから」というよりかは、味で選んでくれているように思う。ただアジア人がチョコレートを作っているということで注目してくれてるような気もする。
例えば日本人以外が、すし屋やラーメン屋をしているような。本家でない日本人がどんなチョコレートを作っているのか、という目線を勝手に感じています。なので試食は必ずオリジナルのダークチョコ、ミルクチョコを初めに食べてもらい、味に納得してもらってから。そしてその後に自分達が考え出しだ生チョコの珍しい味を試食してもらうようにしています。他のチョコレート屋さんと差別化する為には、普通の味だけでは駄目だと思う。だけど好きだからアイデアは常にストックはあって、「今年はどれにしよう」といった感じ。無理やり搾り出すようなことはないんです。
一歩一歩、カカオに息づく誇りと思いをカタチに。
大山: 今のココナマさんの夢、目標はずばり。
タカノリさん: 昔はしっかり目標を立てて一年後、二年後を見据えてしていたが、今は一歩一歩地道に毎日お客さんと向き合いながらやっていくことが大切だと感じています。そうしていると色んな方からお話がいただける。積極的に言われたことは全部やる、それが基本。あまり先を見過ぎないで目の前にいるお客さん、そしてやらなきゃいけない事を大事にしていきたい。僕はこういう風に考えていて、先を見るのはこっち(香代子さん)がやってくれるから(笑)
香代子さん: 彼が言っていることは本当に大事なことでなんですけど、それプラス私はカカオ豆に対してすごい強い思い入れがあるので、いずれは自分達で直接農家さんたちと契約してそこから豆を買い、自分達が作っているダークチョコレートは顔の見える農家さんから買い付けた豆で作られていますよ、と言えるところまでいきたい。カカオは土地の文化に結びついていて、伝統に沿って昔から同じ製法で作られていて、製法の違いで味に違いも出てくるんです。昔貨幣としても使われていたカカオを育てていることに彼らはとても誇りを持っていて幸せを感じている。その彼らの誇りと想いを知り、その想いを商品に反映していけたらいいな、と思っているんです。
タカノリさん: 実は生チョコを作れるまでに加工されている豆はだいたいヨーロッパで加工されてるんです。特にそういう風に大量に加工されているものは大豆由来のものが含まれていたりして、大豆アレルギーのお客さんは食べられない、ということが多いんです。それを防ぐ為にやはり、全て豆から買い付けて自分達でカカオ豆と砂糖から生チョコレートを作りたいと思っています。
遊び道具であり、人生の道しるべ。
大山: お2人にとってチョコレートとは?
タカノリさん: 遊び道具だと思ってる。チョコレートの事を考えることが面白くて仕方ない!
チョコレートの面白さを語り始めたときのタカノリさんは、もう楽しいがカラダ中に。
香代子さん: 私はチョコレートといったら「カカオ」なので、カカオとは「私の人生の道しるべ」だと思っています。カカオのお陰で農家さんと出会えてたくさんの価値観や幸せに出会って考えさせられて、今バンクーバーに来て起業してる自分がいる。いろんな気付きとか考えるべきことを教えてくれるもの。また人生に迷ったらまたカカオ農園に行きたい。なのでカカオは私の「人生の道しるべ」。
念願だったココナマさんへのインタビュー当日は、とても心が弾みました。どんな方達なのか、どんな価値観をもってどんな生き方をされているのか…、聞きたいことだらけで1時間弱のインタビューでは足りないと感じるほとでした。今回インタビューさせていただいてお二人から感じたのは、やはり「プロ魂」でした。好きなことを仕事にしている魅力、そして「好き、楽しい」からくるチョコレートへの思いの強さは「かっこいい!」と思わずインタビュー中に口にしてしまうほどでした。人を幸せにする色とりどりの生チョコを作るお二人の人生観に圧倒されながらも、私も改めて「好きなことを極めよう」と決心し、お二人の想いに背中を押されました。また孝智さんと佳代子さんに会いに美味しいチョコレートを買いに行こうと思います。
大山 美優, Interviewer