BUSINESS DATA: 戦後ベビーブーマー時代の団塊世代に東京で生まれる。両親は日本人だが、母親はカナダ生まれ20歳までカナダ育ち。息子には日本名の別所和雄とは別にカナダ名のWilliam Kazuo Besshoとも命名する。そんな母親のもと小学3年生の頃には中学英語を習得。東海大学理工学部通信工学卒業後、コンピューター関連の出力装置の販売保守の会社に就職。25歳の時にカナダへ移民。イギリスに本社を置くコンピューター関連会社に務める。その後、旅行関連会社に転職し、ガイド・手配・会計・予約などの部署で活躍され、1981年にMaple Fun Tours Ltd.を設立。カナダ3箇所(バンクーバー・バンフ・トロント)の事務所と日本4箇所(東京・大阪・福岡・札幌)に事務所展開している。2018年にはカナダ・モントリオールにも新事務所の設立を予定。 CITAP(Canadian Inbound Tourism Association – Asia Pacific)元会長としてもカナダのインバウンド業界を牽引。創立38年の今なお果敢に邁進を続けている。
ロングインタビュー後編は、ビル別所さんの生き方とその軸に持ち続ける願いとは。
一大事と申すは、今日只今の心なり。
正受老人の「一日暮らし」の教えで、憂うのは昨日でも明日でもなく、人生の中でもっとも大切なのは、今生かされている今日ただいまの自分の心。一日をよく暮らすことは、一生をよく暮らすことになる。
たまたま今あるその仕事を天職として一所懸命やるならば、必ずそこに道が開ける。
豪 : バンクーバーは留学生・ワーホリの人が多いです。僕もワーホリで来たのですが、カナダに温泉旅館を作りたいと思い今それに向かっているんですけど、僕の友達が「豪は、楽だよね」と言うんです。「豪は、やりたいことがある。でも、僕はやりたいことがない、何かしているわけでもない。でも今の現状に満足していない」と葛藤していて。ここで出会ったワーホリの人に「なんとなく居る」という人もいました。そういう若い人たちにとって、別所さんのように目標を持たれて前進し続けている方というのは輝いて見えると思うんです。そういう若い人たちにどんなアドバイスをされますか?
別所: 人は、比較できないと思うんですよ。人生みんな違うんでね。早咲きとかありますけど、豪さんのようにラッキーに好きなことを見つけ、目標や夢を持って走っている人もいる。でも何も焦る必要はないと思うんですよ。その人の人生ですから。他が決まったから自分も決めなきゃとか、なにも焦る必要はない、人生違うわけですから。大切なのは、絶えず一所懸命、大したことないと思える仕事でも、そこに心を込めてやっていくことによって、いろんなことが見えて来る。やりたいことが来たらやる、ではダメ。でないと自分の好きなことや夢がぱっと来た時にそれに気がつかない。見える力や先見力をつけるためにも毎日を一所懸命生きる。
私の友達で何十年もホテル経験のある人なんだけど、バンクーバーでは希望したところに入れなくて、とりあえず皿洗いしか仕事がないからやってみろってなって。その人は誰よりも早く来てピカピカにして、皿洗いを毎日一所懸命やってたら、ホテルから Employee of the Yearをもらったんです。何であっても、自分のことだと思ってオーナーシップをもって、皿洗いするのだって心込めて綺麗に磨いて、これが自分の仕事だと一所懸命やれば必ずそこに自分の道が開ける。適当に汗もかかないで、ただ、枕に普通に寝てて上手くいくと思ったら、甘い。いい加減になっている人は、出し惜しみしている。もったいない。周りの目はどっちでもいいから、たまたま今あるその仕事を天職として真剣にやったら、なにか見えてくるんじゃないかな。
“ゴール”というものがあるならば、それは「今を生きる」。今を生きる繰り返しが、結果を生む。
豪 : 僕はとにかく今を生きようと自分の心に決めているんです。大学卒業前の、就職活動中に迷った時期がありまして、その時読んでいたスティーブ・ジョブスの本に彼が福井県にある永平寺に行こうとしていた、と書いてあったんです。僕は、ジョブズの考え方が好きだったので、今考えていてもしょうがない、とりあえずジョブズが見たかったものを見てみようと思い、次の日、永平寺に行ってみたんです。そこで、拝むだけで帰るのも嫌だったので、写経というものをはじめてやってみました。朝早かったので、大きな部屋に僕一人でした。お坊さんに聞いてみたんです。「曹洞宗もあまり知らずに来てしまい写経をしているんですが、今悩んでることがあるんですけど、どうすればいいですか」と。そしたらお坊さんが「私たちは、未来や過去を考えることは無知とされています。だから、私たちはひたすら坐る。それを只管打坐(しかんたざ)と言います。今をひたすら坐る。私たちは禅しか知らないけれど、佐々木さん、とにかく今をまず一生懸命やってみたらどうですか。」と言われたんです。その時の僕は、未来を考えすぎて、どうなりたいとか…。その言葉はシンプルかもしれないですが、心に突き刺さりました。そこから僕の考え方が変わって、進み始めたんですね。それから決めたことは「とにかく今を頑張ろう」と。
別所 : それは、素晴らしいことだと思う。未来に支配されない。私もこの仕事を始めたのはその時の状況からで、当然何十年後にここまで来るとか誰にもわかんなかった。けども、そこに不安もなかった。まぁ、30ちょっとで若かったので、成功するかとかこれで飯が食えるかとか全然考えなかった。ただ毎日を懸命にやっただけ。時代が良かった、運が良かったとかいうんですけど、でも毎日毎日の積み重ねが信用・信頼を得て、周りの人や僕の知らない人も見ててくれて、お前とだったらやりたいって言ってくれるエージェントがいっぱい出て来て。お金儲けとか名誉とか大きくしたいとか、そこを求めてやってきたわけじゃない。目の前の不安でどうなるかわかんなくても、ただ毎日このお客さんを絶対満足させて帰るぞ、とそれだけに集中していたら、結果が付いてきた。逆に結果のことばかりを考えていると人間どうしても小さくなってしまうものです。自分が過ごしてきた人生を振り返ってみて僕はそれは正しいと思います。けど、それを初めからわかっててきたわけじゃない。今もまだずっと一歩一歩進んでいて、ゴールにも届いていないし、毎日毎日をただ一所懸命やっているだけ。
豪 : 成功がゴールじゃないということですね。
別所: ないです。何を自分なりに考えてゴールというのかね。たとえ何百億作ったからゴールだとか、それじゃあかわいそうですよね。お金作って終わりじゃあ人生それじゃ楽しくない。この仕事のおかげで僕は今の生活をさせてもらったっていう感謝があるので、今度はせっかく私が受けた恩恵を業界や若い人たちに戻していくみたいなね、恩義を返すという感じの気持ちが今強いです。だから、なんとか形を作りたい。インフラを作りたい。魅力のある業界にして、なんか楽しそうだなってもっと入ってくるようにしたいんです。
自分が心を込めてきたものが、相手を良くし、周りを良くし、それが巡って自分に還ってくる。
豪 : 別所さんは本当に一貫されています。それがご自分だけじゃなくて、旅行業界にむけても貫いている。
別所: でも、それが全て自分に帰ってきているんですね。業界をよくすることが自分に帰ってくる。短絡的にみるとちょっと遠回りしているかもしれないけど、でも、もうちょっと上の大局観でみて、よし!この業界をよくするぞ、と邁進していたら自分もよくなったという感じ。
豪 : 今を生きるを実現されていらっしゃる感じです。目の前で!
別所: そんな、大したことないんだけども。ただ、本当にシンプルなんですよ。そんなに難しいことではないし、謙虚・感謝とか、礼儀とか人間として当たり前のことさえやっていれば気持ちもいろんなことがきちっとしますから。そういうことを心がける。
豪 : 別所さんは曹洞宗のお坊さんでしたか?お坊さんのお話を聞いているかのような気がします。
別所: いやいや(笑) ただ自分が一所懸命生きたことから、たまたまそこにたどり着いているというだけで、そんなおこがましいです。さっき豪さんが言ったように、今目の前のことをやり抜く。それをやってる人ってやっぱりすごいじゃないですか、いろんなことことを研究するし。豪さんの場合、温泉とか旅館。そこを突き進めば見えてくる。
自分は自分でいい。
豪 : 在り方が自然と禅なのですね。僕も海外に温泉旅館を作ると考えて、自分なりにいろんな国や場所を探しました。日本旅館を世界へと考える星野リゾートの星野佳路さんの本もいっぱい読みました。星野さんに勝つような温泉旅館を作らないと、って思い始めたんです。星野さんは彼が大手町に作った温泉旅館をこれから世界に展開していくんだろうなと思うので、だったら僕はこじんまりとした禅を取り入れた旅館を作りたいと思ったんです。カナダに来る前に改めて永平寺に行って座禅修行をしたんです。朝3:30から起きて、座禅を組んで。
別所: それこそ修行だね。
豪 : その時、日本人の性格ができた基盤がこういうところにあるのかなとか、仏教はすごく歴史が古いので色々学ぶことがありました。ご飯を食べる時にも、全く喋ってはいけない。禅堂で格式があるところで食べるので、食べる時も周りを見ながら、一番遅い人と一番早い人の中間のスピードで食べなさい、と言われました。食べ物を大切にしたり、茶碗を洗う時も少しのぬるま湯で全ての茶碗を洗い、それも最後に飲み干したりして。こうやって、日本人という人格ができて来たんだと思いました。それを体験したからこそ、ここで紹介していただいた温泉の研究家の方が禅の考え方が好きで、それいいねって共感してくださったり。僕は考える頭がないので、ひたすらやることが、僕の唯一できることなので、今とにかくやろうと。
別所さんはその「今を頑張る」をずっと続けていられる。別所さんのお話から僕と同じ世代の人たちに、今を頑張るというそれを伝えたいです。
別所: うちにのスタッフでも、なにか出し惜しみをしているというか、もったいない。もっともっと出せる可能性をもっているのに、良いものを持っているのに、なんでもっと全力を出さないのかって思う。
星野さんはユニークでトップだからね。でも勝つんだ負けだというものより、豪という1つのアイデンティティを持って、私が求めている・私が思うものはこうなんだ、ってオンリーワンで突き進んで僕はいいと思うけどね。僕はモノマネはあまり好きじゃなくて、なんでもいい、ニッチでも、オンリーワンでも、そんな生き方もある。それが採算合うとか合わないとか、余計なことは考えないほうがいい。
豪 : そうですね、思わないようにはしてるんですけど、正直ちょっと考えてしまう。
別所: せっかくいい情熱もってんだから、佐々木豪のオンリーワンで思い描いているのがあるような気がするので、自分が思うホテル・ホスピタリティ・施設・ソフトウェア、それがこれだと信じて通していく。これは絶対受け入れられるんだと言う自信持っていったらいいんじゃないですかね。僕はそれぐらいの強さをもっていてもいいと思います。
やっぱり苦しいものは苦しいです。僕と同じように会社を経営するやつがいて、そいつは世渡りがうまいタイプなんです。僕はくそまじめで世渡りがそれほどうまくなかったので、人にちやほやしながらうまく繕って行くことはできなかった。出来るやつはパッとうまくいっちゃったんですけど、僕は自分に正直だから時間はかかるかもしれないけどスローでも自分のスタイルを通していこうと、それが自分だし、カンフタブルだからね。でも実はちょっと同じようなことをやってみたわけですよ。商売考えて、ちょっと茶坊主やったりね、俺の会社をよろしく~なんてね。でも夜帰ってね、なんで俺はバカなことをやってんだろう、チンドン屋みたいな。全然違う。こんなのは俺じゃない。もうやめたと。やっぱ自分は自分でいい。自分のスタイルを認めてくれないなら、認めてもらえなくていい、認めてくれる人を探す。それが1割しかいないかもしれないけど、その人に探し着くまでは頑張りましょう、という気持ちになりましたね。
豪 : そういった気持ちは大切ですよね。今の若い人たちみんな大変だと思うんです。SNSとかFacebookとかでみんながやってるやり方というのがあふれているから、そのやり方でやらなきゃいけないって思ってしまう。別所さんが心の底から感じた違和感。自分のやり方ではない、と言える。
別所: 本当に、自分じゃないと思ったんです。自分にはこのやり方しかできないし、これ以上僕に求めてもしょうがないから突き進もうと。それで受け入れられるか受け入れられないか、どのぐらいかかるかわからない。5年かかるのか10年かかるのか、あるいはまたいつ上手にできるやつが出てくるかわからない。それでもこの生き方で行くしかないと思っていたら、案外早く根付いて信頼を積むことができた。自分の気持ちに正直で、不安な気持ちに振りまわされないで。認められるのに時間かかるかもしれない、でも10人のうち1人に認められればいいぐらいの気持ちでやってていいんじゃないんですか?70億人いて、1/10人の確率だったら、そこに7000万いるから(笑)そのくらいの気持ちで自分に強く自信を持って。佐々木豪は佐々木豪のアイデンティティがあって、なにも捨てる必要はない。他と一緒にする必要もないし。もちろん学びは必要です。そこにプラス自分の持っている主力のものと、ブレンドさせて出す。星野リゾートではなくて、佐々木旅館でいいんじゃないんですかね。それが、認められるように絶えず改善改良を加えて努力していけばいい。僕も商売するためにいろいろ創意工夫をしましたね。なんで、認められないんだろうと。違和感のない程度に変えて行く、それはやりました。
豪 : 別所さんの言われることはシンプルで一貫されている。
過去も変えられない、未来もどうなるかわからない。
今生きていく積み重ねの中に未来ができてくるわけだから。
別所: 僕の周りにもいますけど、あれこれ先を案じて考え過ぎるんです。だから、お前頭が良すぎる、そうなるかわからないんだからとりあえずやってみろよと。わからないことに一所懸命思い巡らせても意味がない。過去も変えられない、未来もどうなるかわからない。今生きていく積み重ねの中に未来ができてくるわけだから。
豪 : 人との出会いにしても、その人に会ったことがラッキーに繋がったんではなく、その時頑張っているからその人が居てくれたりとか、巡り合わせなのもあるのかもしれませんね。
別所: そうです。そうなんです。やっぱりやっていると、いい人がひっついてくるんですよ。僕もそういう出会いの中で助けられた人、いっぱいいるんです。いい巡り合わせが生んでくれたんですね。真面目に絶えず変わらず接しいる私の姿を見て、お前だったらと言ってくれて、うちのツアーを全部任す、って言ってくれたり。見てくれていたっていうのは、ありがたかったですね。
僕の仕事で良かったことは、最初の頃にガイドの仕事ができたこと。ガイドの仕事って昔は、1週間お客さんにくっついて行ったんです。社長とか議員さんとか俳優さんとかいろんな人を相手にして、そういう人と一緒に寝食するわけですよ。僕は仕事と思ってやっていなくって、皆さんの中に入って一緒に遊んじゃうんですね。遊んじゃうって言うのは、つまり楽しくやる。自分が楽しくなきゃお客さんも楽しくないというのが心情だったんで、ガイドの仕事で楽しませるというよりも、自分が楽しむ。そうするとお客さんも楽しむ。で、一体感。そうやって生まれた一体感の中でずっと寝食共にするので、そうすると社長とかいろんな人からいろんな話を聞くわけです。
ある社長のガイドをした時に、どうしてその会社をはじめたのか聞いたんです。するとその社長が「単純な理由だ。うちには何百というい人がいて、ゴミは拾えるだろうから掃除を始めたんだ」と、これが東京美装っていう新宿にある会社で、スキー指導者でありのちに日本オリンピック委員会JOC会長も務めた八木祐四郎さん。彼がスキー部員たちのアルバイトとしてビルの清掃を引き受けたのをきっかけに、今はメンテとか、警備、ビルメンテとか、掃除、何万人をかかえる一番大きい会社になったんですけど、本当に単純な理由で始めてるんですよ。そういう話をいろんな方から聞いてきて、あぁ、お金をもらえて感謝されて、しかもいい話を聞かせてもらえて、こんないい仕事はないって、本当に楽しかった。そういう楽しさを今の新しく旅行業に入った人たちに知ってほしいなと思いますね。この仕事は、いろんな人に会えるし、いろんな経験を聞けて、自分のためにもなる。本当に何が自分のチャンスになるかわからないんで、頭よ過ぎてあまり考え過ぎないで(笑)