今日は4月10日。
ちょうど5年前の今日、2017年4月10日に私は家族を連れWork Permit(と引き換えられるはずのレター)を握りしめて日本を旅立ちました。
16年勤めた国立大学を退職し、共同経営者と共にバンクーバーで英語コミュニケーションスキルを向上のためのプログラムを開発する会社を設置するためです。
英語教育なんて、レッドオーシャンに飛び込むようなものだ。
巨大資本の会社に勝てるわけない。
公務員のままでいれば安泰なのに。
周囲からの有難い(?)お言葉を受けながらも私には勝算がありました。
だって、私たちが見つめる問題の本質に気づき、その課題の解決に特化した会社、サービスはなかったのです。
え、英会話でしょ?
英語学校なんて、たくさんあるじゃない?
と思われた方に、ちょっと長くなりますが、長年にわたる英語学習者として、そして数百人の日本人学生を支援した大学職員としての気づきから、私が起業を決意したストーリーをお届けしたいと思います。
今となってはカナダ人社員と毎日英語でミーティングをし、トレーニング用英語コンテンツの最終チェックをし、移民用に受験したIELTSではspeaking band 8.5を取った私ですが、もちろん、そうなる前は、英語を身につけようともがき苦しんだ英語学習者の一人でした。
カタカナの苗字ですが、結婚後にそうなっただけで日本人の両親の元に生まれ、日本の地方で育った日本人です。
帰国子女でもなければ、学生時代に留学をして英語を身につける経験を得たわけではありません。
初めてパスポートを取ったきっかけは、大学4年生で友達と訪問した韓国ソウル、と言うところからも私の超ドメスティックだった青春時代が垣間見えると思います。
高校受験、大学受験で猛勉強し、好成績だったはずの英語は全く使いものにならず、大学の研究室では挨拶から先に会話が続かないのが嫌で、話しかけられないよう留学生たちから逃げ回る日々でした。
大学卒業以来、私が英語のテキストブックを再度開いたのは27歳のとき。
シングルマザー(1回目)となったことをきっかけに「何か」特技を得ようと一発奮起し、TOEICの勉強を始めることとしたのです。
もともと学生時代には成績の良かった英語。
テキスト学習をこなし、数年かけて900を超えるスコアを獲得した私は、当時勤めていた大学の海外駐在のポジションを勝ち取ったのです。
グローバル社会の縮図とも言える米国シリコンバレーで、アメリカの大学の協力を得ながらプログラムを企画し、数百名の日本人学生の留学を支援する仕事でした。
そこでぶつかった壁。
思うように話せない。
いつも宙で単語を探してばかりいる。
電話だともっとダメで、単語がバラバラに口から出てきて文にならない。
TOEICの高スコアなど、英語環境で仕事を進めるためにはほとんど意味を成しませんでした。
私だけではありません。
関わった数百名の日本人留学生のほとんどが、青春の貴重な時間を何年も投資して学んだはずの英語が全く身になっておらず、学術交流どころかホストファミリーとの意思疎通すらできず、食事や洗濯でトラブルが起きるレベルに「英語が話せない」状態でした。
では、語学学校に行けばその課題は解決されたでしょうか。
数百人の学生を支援した経験からの気づきは
- 日本人学生はインタビューでクラス分けをされると何段階も低いクラスに振り分けられ、多くの学びを得られていない。
- ほとんどの日本人は受け身で授業を聞き、他国留学生に発言の機会を延々と奪われ,大人しく板書だけして帰っていく。
- プレゼンなど、事前に準備し暗記ができるものは高い完成度でやれるのに、その後の質疑応答は全く対応できず、発表との落差が激しい。
つまり、アメリカの語学学校に通っても英語を話せるようになってはいませんでした。
そして一番悔しいのは、英語が話せないだけで「仕事レベル」も「学識レベル」も実際より相当低く評価されてしまうということでした。
そもそも、私も学生たちも英会話を勉強するためにアメリカにやってきたのではありません。
- 私は、英語を使って私の持つ価値を提供し、米国人と協働で仕事をするために
- 日本人学生は、英語を使って、専門性の高い学術交流をするために
アメリカに来たのです。
しかし、私の仕事スキル、日本人学生たちの優秀さはそれを表現する英語コミュニケーション力の圧倒的な不足で、他者に伝わらない。活躍したいと思っているのに、できない!
日本人の優秀な力を発揮できないのは世界にとっても損ではないか!と心から悔しい思いをしました。
つまり、日本人は、英語が自由に使えるようになれば世界でもっと輝けるのです。そして、日本人の力を得て、世界はもっと素晴らしいものになれるのです。
さて、冒頭の
>だって、私たちが見つめる問題の本質に気づき、その課題の解決に特化した会社、サービスはなかったのです。
というフレーズに戻ります。
ただでさえ受験勉強を重ねてきた学生や自分自身をみて、日本人が世界で力を発揮するために必要なのは、更なる「英語学習」などでは絶対にないと断言できます。
日本人に圧倒的に欠けているのは、その場で自分が今考えていることや思いを表現する力です。
そのためには、英単語やフレーズを覚えるだけでは不十分。
相手の言うことをリアルタイムで理解(インプット)し、自分の言いたいことを自力で単語を一つ一つ繋げて文を生成し(言語処理プロセス)、発話する(アウトプット)までの一連のスキルが必要です。
つまり、インプットとアウトプットの間で起こる処理力こそが、人間の脳が生まれながらに持つ言語能力なのですが、従来の英語学習では直接的にその力が養われていません。
それは教わって身につくものではなく、適切なトレーニングでのみ習得することができるものだからです。
Gabby Academyの事業としてのユニークさ、そして勝算はここにあります。
東京大学の言語脳科学の第一人者酒井邦嘉教授との共同研究も3年目。すでに研究成果をトレーニングプログラムとして世に出すことができています。
AIなど翻訳技術の発展をもってしても、共通言語を使って直接対話することでのみ、生まれる価値があります。
私たちの世代も、そして子どもたちが担う未来も、国境を超えた価値共創の場で多くの日本人が輝くものでありますように。
企友会理事 副会長 ホール 奈穂子