2024年4月6日(土)に企友会主催・日加商工会議所後援という形で、今年度第1回 企友会MBAをバンクーバーダウンタウンのWeWorkにて開催しました。ハイブリット形式で行い30名を超える方々にご参加いただきました。
ゲストスピーカーの疋田拓也さんは、水産物輸出入業務や水産関連のコンサルティング業務を行うTsukiji Fish Market Inc. のCEOです。独立経験0、海外留学経験0でありながら、2018年にバンクーバーに家族で移住し、ビジネスを立ち上げました。現在37歳でお子さんが6人おり、3人が日本生まれ、3人がカナダ生まれということです。
講演内容は、疋田さんのプライベートな話から、カナダにおける漁業の歴史的・専門的な話まで多岐に渡りました。疋田さんが掲げていた「水産×教育×自然」についても詳しく語ってくださり、専門用語もしっかり解説いただけたことで、どんな方でも楽しめ学ぶことの多い会になりました。当初は1時間半を予定していましたが、疋田さんの興味深いお話と出席者からの質問も多くあり、ネットワーキングも含め2時間以上の盛況なイベントとなりました。以下詳細に紹介します。
魚が自分の人生を豊かにしてくれた
小さい頃は魚が嫌いで食べられなかったという疋田さん。しかし、実際に自分で船を運転して(当時は合法)漁を行うことで、魚に触れ、魚が好きになったそうです。
そこから、大学にてマリンバイオロジーを学び、築地市場にある会社に就職しました。競り人としてのキャリアを積み、鮮魚を見極める目を養っていった疋田さん。ただ、奥様と結婚をし、お子さんが生まれ、お子さんがいるのに仕事漬けで家庭にいられないことに引っ掛かりを感じ、家庭も大切にしたいという気持ちがカナダに来た理由の1つになったそうです。奥様が「あなたの夢は、私たちの夢だから」と言ってくれたことも、移住を大きく後押ししてくれたきっかけでした。
全ての業界が「〇〇業界」という垣根を越えて、複合的な知識や認識が必要になっている頃だと感じている疋田さん。そんな思いから、今回のテーマである『「水産業」を「環境業における水産分野」としてみなす未来を。』を決められたそうです。実際、漁業は密接に環境と繋がっています。養殖する場合、魚が糞や尿をするため、その海域を汚すことになってしまうからです。また、養殖技術は上がっていても飼育する場所は海ということは変わっていないため、現状海という自然に頼らざるおえないというのが水産業の現状です。
カナダにおける魚・漁業
カナダにおいて魚とは、豚肉・牛肉・鶏肉の1つであり、種類もsalmonやcodなどの主要なもの以外は全て同じという考え方です。日本では季節柄や調理の仕方を工夫し、築地では380種類以上が1日で取引されていますが、カナダではそういった文化もなく「魚肉」として取り扱われている状態です。
カナダに日系移民が来てから、サーモン漁業の休止時期にニシンを取るなどの二毛作を行うなどの効率化が行われた歴史的背景があります。しかし、まだまだ生食としてや、それぞれの魚ごとの価値は広まっておらず、今後疋田さんが魚の生き締めの方法や氷当てで変わる鮮度の保ち方を広めて、魚自体の価値を高めていきたいという思いがあるそうです。
日系移民の歴史を掘り下げると、和歌山県の人が多く、また滋賀県の琵琶湖氾濫がよく起きる湖東部から多くの人が水産移民として移住しました。最初はスティーブストンエリアからアイルランド太平洋側へ移動してきたようです。疋田さん曰く、バンクーバーの海はロッキー山脈からの冷たい水がくる前の温かい水温が保たれている土地であり、何もしなくてもある程度牡蠣が育つ環境にあるほど海が豊かであるようです。そのような土地だからこそ、水産移民が多く住み着いたのでしょう。
カナダは日本と違い、ドックという加工場が漁業を行えるライセンスを持っており、加工場が必要な分だけ漁師に魚を取ってきてもらうというシステムとなっています。日本はこの逆で、漁師が魚を取って漁協が出来上がり、そこから加工場などが魚を買い付ける形です。
カナダでは、小さい船の漁師は十分な漁獲高を確保できず、生活する上で十分なお金を稼ぎづらいということがあり、大規模漁業が盛んになったそうです。ただ大規模漁業は魚が傷つきやすく無駄が出ることも多いので、環境にとっても悪いと言う疋田さん。そのため、中規模・小規模漁業を自分が関わることでもっと盛んにしていきたいという思いもあるそうです。
海活
疋田さんは会社経営だけでなく、「海活」という活動も行っています。海活では、文化・世代を超えて人と人とが繋がる機会を増やし、水産物などの身近なトピックを使い知ってもらいたいという気持ちで、以下を大切にしています。
1.繋がりの創出
2.海や自然を身近に
3.他人事を減らして、自分事を増やす
海活の1つであるbeach cleanupでは、グループで来た人を意図的にわけ、他の人と積極的に交流をを持てるように清掃グループを作成。また、ゴミを入れる容器を意図的に少なく渡すことで、清掃グループ内でゴミを入れる時に会話が生まれるようにしているそうです。
海や自然に触れることで、PCデトックスや気持ちのリセットとしての場の提供も兼ねているとおっしゃっていました。
実際に活動を通して一人一人の実情を知ることで、他人事と割り切るのではなく、自分事として向き合う・助け合うということも増やしていきたいとのことです。
最後に
ここに書いた内容は講演の一部であり、他にもさまざまな興味深い話を聞くことができました。私自身漁業について明るくないですが、専門用語についても一から説明いただき、歴史についても面白く語っていただいたため、最後まで楽しくお話を聞くことができました。今回はIn personとonlineの同時開催だったため、トロントから参加している方もおり、それも印象的でした。
環境にとって美しい海とは食物連鎖がしっかりと作られている海のことであり、人間が考える美しい海はあまり酸素がない状態の海だそうです。環境問題が大きくなっている昨今、環境にとって美しい海を増やしていくことが大切であり、自分も少しでも貢献できたらなと感じました。
また、この経験から、次回の企友会MBAにもぜひ参加したいという思いが強くなりました。今回参加を迷われていた方は、ぜひ6月開催予定の企友会MBAにご参加ください!
企友会ボランティア 林 珠希