初めまして、今年度理事に就任しました吉良と申します。

2017年に移民目的でカナダに移住し8年目に入ろうとしており、まだまだカナダ新参者です。

とはいえ私のカナダとの縁は兄がアルバータ州で交換留学した1989~90年から始まります。1995~96年には今度は私がオンタリオ州で交換留学させてもらえ、総括すると、異文化交流・語学力向上というよりは、ホストファミリーや近しい人たちと関係構築しもうひとつ大切な家族ができた、というのが私にとっては一番大きな収穫だったように思います。

ゆえに当時(そして比較的最近まで)は彼らの慣習・近況・個人的な考え方には興味があるものの、カナダの歴史や文化、産業などといった国そのものには大きな関心が向いていませんでした。とはいえカナダが特別な存在であるため、他の国よりは興味があったのでしょう。今から10年ほど前に近所の大型書店で日本ではあまり見かけない「カナダ」が題名に入った書籍をたまたま目にし思わず手にしました。

それが真壁知子氏著のカナダ「地域」と「国」を旅する | 西田書店 (nishida-shoten.co.jp)

冒頭の「はじめに」の最初の2行にこう書かれています。

まさに私が常々(薄々)感じていた疑問であり、私だけじゃなかったんだと驚きました。

さらに数行後、1ページ目の最後には、

とあり、もうこの時点で心の中では本書を握りしめレジに向かっていました。

著者は社会学を専門とする元学者の方で、本著発行時点(2011年)でカナダ在およそ40年 (p.3, p.230)。本書はカナダで通用されている区分でもってカナダを地域分けし (p.207)、文献調査は最低限にとどめ、フィールドワークはあえてせずこれまでの著者の個人的経験談や観察、分析、考察を交えながらカナダの歴史や社会について綴ってい ます(p.3)。とはいえやはり元学者の方の著作。個人的には学術文献といっても遜色ない本だと思っており、カナダ入門書として今まで部分的、全体的に何度も読み返し重宝しています。

本書では多くの(私にとっては驚くべき)ことを知ることができます。

外交権を獲得したのが1931年、カナダ最高裁が最終審を行使するようになったのが1948年、自主憲法が誕生したのが1982年 (p.34-35) と最近だった。飢饉をももたらす厳しい天候異変の環境の中、相互扶助組織(協同組合)が発展したプレァリー地域で社会主義を標榜する政党(Co-operative Commonwealth Federation)がカナダにも存在しサスカチュワン州の政権を担うまでになった (p. 156-158)。BC州は人種排斥が制度化されたカナダで唯一の地域であること(p. 185)。などなど。

なかでも個人的に一番印象深い学びは、私も現地で目の当たりにした、(1980年1度目に続く) 1995年2度目のケベック州で行われたカナダからの分離を問う州民投票について (p.84-96) でした。1995年留学時に滞在していたカナダ人ファミリー宅である日ホストマザーが、ケベックの人たちにランダムに電話をかけまくってカナダに留まるよう説得するのよ、と一日電話で話しており、カナダでそんなことが起こっているなんてびっくりした覚えがあります。彼女曰くそのような個人レベルの動きはオンタリオ(カナダ?)中で広がっていたようです。本書を読んでこれら2回の州民投票の歴史的・社会的背景を知ることで、ただ単に驚いた思い出から、もう少し深いカナダ理解まで昇華できたのではないかと思います。

最後に著者はカナダという国づくりは未だ進行中だと言える示唆しています (p. 215)。本書以外の文献や書籍、映画、音楽などを通して今昔のカナダを知り、同時にいちカナダ移民として自身の経験を通してさらに深くカナダを理解していきたいと思っています。皆さんもカナダに関し他にお勧めの本などあればぜひ教えて下さい。

企友会理事 吉良聡恵

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